千葉一族盛衰記 第十話「千葉一族と将門記 其の二」【2024年3月号】

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  2024/2/27
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前稿では、将門記に描かれた将門戦記の前半戦を紹介しました。
本稿では、さらに混迷の度を深める将門の後半戦をみていきましょう。

前回紹介した戦の取り調べを受けるため、将門は京の都に召喚されます。将門の時代にはすでに戦争当事者に取り調べをし、責任を負わせる行政システムがあり、その行程に将門がしっかり対応をしていた。将門の小説を初めて読んだとき、私はこのことにずいぶん驚いたものです。まして、関東から京都までの道のりは長く、京を往復する時間だけで中央や地元の政局、戦局が大きく変わってしまいますから、行ったり来たりも命がけだったことでしょう。

都での「将門裁判」とその後の戦

さて、都での取り調べでは、将門は無骨ながら道理の通った陳述を行います。結果、将門は「罪過重からず」との審判を受けました。さらに将門は恩赦も与えられたため、罪を問われず帰郷することができました。

終わったかに見えた戦いは、将門に強い恨みをもつ良兼が将門に不意打ちをかけたことによって破られました。都から戻って間もない将門の不意をついた良兼は勝利し、今度は将門が領土を焼き払われてしまいます。良兼の軍勢は寺院や農民の家々をも焼き払い、立ち上る煙が空を覆いました。

将門は怒り、準備不足のまま良兼に挑むも再度破れてしまいます。このとき、将門の妻が良兼にとらわれたことで、将門の怒りと悲しみは頂点に達しました。

この後、将門の妻が良兼勢から逃れ、将門のもとに戻りました。それを受けて、将門は憎き良兼に再戦を挑みます。このときの戦は凄惨を極め、両軍の軍勢はおおいに疲弊しました。
 
そんな折、将門に追い風が吹きます。朝廷から恩赦をえた将門を、勝手に攻めて戦禍を広げた良兼、貞盛らを捕らえよとの官符が発せられたのです。これを受けて将門はおおいに喜びますが、関東周辺の国々のことごとくがその官符に応じませんでした。

戦局が拮抗していたのでしょう。地元の豪族にしてみれば、自分の判断で将門側について戦った結果敗北してしまえば、官符の有無にかかわらず一族は皆殺しの憂き目にあいますから、中立の立場を貫いたほうが得と考えてのことと思います。
 
私としては、このとき将門は「朝廷には力がないな」と判断してしまったと思うのです。まして、今のようにインターネットが世界をくまなく覆っている時代と違い、地方の動乱の情報が都に届き、その情報を元に朝廷が官符を発し、その官符が動乱の現場に届くまでの期間は優に数か月を要しました。さらにその官符の効力が地方であったかどうかを朝廷が情報収集し、状況を見極めて追加措置をしようとしても、それまでにおそらくその動乱の勝敗は決してしまっていることのほうが多かったのではないでしょうか。

このとき将門が官符に感じた一連の思いが、後に「将門の乱」への伏線になってしまったと考えます。

将門と貞盛

さて、かつて将門との戦をいったんは対話により解決しようとしていた貞盛は、自分が結果的に将門成敗の軍勢に加わったことを恥じ、心改め忠孝をつむべく都への帰還を決意します。

一方、貞盛の動きを察知した将門は、貞盛が都で将門を貶めようとたくらんでいるのではないかと勘ぐり、執拗に貞盛を追い、殺害をはかります。このとき、貞盛は道中終始悲惨な逃走を余儀なくされました。結局、貞盛は将門に捕縛されず、最終的には将門を誅殺する側の人物として名を挙げることになるのです。

なお、この時将門に殺されかけた平貞盛こそ、後の伊勢平氏の源流であり、平清盛の先祖です。もしこのとき将門に捕殺されていたら、平清盛も生まれることがなかったと考えると、歴史の数奇な流れを感じずにはいられません。参考までに過去の記事で使用した家系図を再掲します。
 
次回は、いよいよ将門の最期を紹介します。

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歴史噺家 けやき家こもん

【著者プロフィール】
 昭和46年佐倉市生まれ。郷土史や伝説をわかりやすく、楽しく伝える目的で、落語調で歴史を語る「歴史噺家」として活動。著書に「佐倉市域の歴史と伝説」がある。
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