♯2 星に願いを  When You Wish Upon A Star

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  2022/1/11
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「25年後の大みそかの夜、午前2時。
千葉みなと駅のプラットフォームで、君を待っているよ」


前回までのお話
千葉市の港に面した街・千葉みなとに住む少女ナコは14歳の中学生。よろず相談を受ける「黒船みなと相談所」を営み、助手の喋るカモメ・アルメリアと二人暮らしをしている。行方不明となっている素粒子研究者の父・雄造を捜しているナコは、千葉みなと駅前のジャズバー「clipper」でライブをしていた『4M2T』のアキラに手掛かりを求めて会う。
実はナコには隠れた姿があった。父の残した赤石の指輪【リング】を使い、自ら戦闘マシンにメタモルフォーゼ。モノレール車両を変化させた火の鳥「イカロス」を操って、港に巣くうある者たちと秘密の戦いを繰り広げていた。
一方、アキラはナコに何か秘密があるのではと疑いを抱く…。
もくじ

#黒船みなと相談所 不思議な依頼

 
「おもち、ある? お正月に食べるぶん」
2021年12月31日大みそか、千葉みなと駅からほど近い千葉港に面したハーバーハウスの片隅にある小さな部屋。
『なんでも相談1,000円でたまわります。黒船みなと相談所』の看板を拭きながら、カモメのアルメリアは心配そうにナコに聞いた。
「大丈夫、ちゃんと買ってあるよ。ふたつ」ナコは海の見える窓を拭きながらニッコリ笑う。
「そう…あとポテトがついたら最高のお正月なんだけど、ゼイタクは言うまい」
「来年はお客さんいっぱい来るように磨いて」ナコが苦笑したとたん、ノックの音が響いた。
ドアに飛んで行くアルメリア。
そこには老婦人が一人、ニコニコと立っていた。
「どんな相談にでも乗ってくださるというのは、こちらかしら?」
「こちらにございます、お客様!いらっしゃいませ!」
アルメリアの瞳はダイヤモンドのように輝いた。

「今夜午前2時に、千葉みなと駅のホームで待ち合わせ、ですか…?」
「ええ。主人とね。約束したんです。25年前に」
目を丸くするナコとアルメリアの前、古びたソファに座るおばあさんは古い写真を取り出した。千葉みなと駅背景に肩を寄せ合う夫婦の写真。夫は不治の病がわかり、息を引き取る前、こう言った。
『悲しまないでユキコ。また会えるよ。約束する。25年後の大みそかの夜、午前2時。
千葉みなと駅のプラットフォームで、君を待っているよ』と。
「今日がその日なの。私はこの日を25年間待っていた。そこへ今夜連れて行ってほしいんです」
ぽかんとするナコに、アルメリアがひそひそ耳打ちする。
「…このおばぁさん、絶対ヤバいよ。死んだ旦那さんと真夜中の駅で待ち合わせなんてさー」
「ボケてるわけじゃないのよ。カモメさん」おばあさんの声にアルメリアが吹っ飛ぶ。
ナコはおばあさんに向く。
「ご主人の遺言はわかりました、けれど…」
「ええ。25年前に亡くなった人との約束なんて、正気の沙汰じゃない。自分でもわかっているわ。駅の人やほかの人にもそう言われた。でもね。私は彼の言葉を心の支えにして、ひとりで生きてきた。だから、そこに行ってみるだけでいいの。ホームに立つだけでいい。実は私も主人と同じ病がわかっていて、もう長くない…お嬢さんのところが最後の望み」
そうさびしく微笑むと、ふと机の雄造とナコの写真に目をやる。
「あら、お父さまかしら。優しそうな方」
「…はい。いまは会えないのですが」
ナコは頷く。おばあさんはナコの肩に両手を置く。
「大丈夫!会えるわよ。こーんな可愛い娘、置いてくわけないじゃない。願い続ければ、きっとその想いは届けられるわ」
そしておばあさんはショールをかけ、さびしそうに立ち上がった。
「やっぱり無理なお願いね。話を聞いてくれただけでうれしかったわ、お嬢さん」
ナコは立ち上がった。
「依頼、お引き受けします」
「ナ、ナコ?!まじか」アルメリアはまたぶっ飛んだ。

#モノレール千葉みなと駅 約束の午前2時

 
絶対あの子には、何か秘密がある。
大晦日の夜。仕事帰りのアキラの足はやや苛立ちながらナコの事務所があるハーバーハウスへと向かっていた。
恩師の娘であるナコに初めて会った夜。港で鎧を付けた姿を一瞬見た気がした。
ポテトをデズと争って食う、ペラペラ喋るカモメはよく訓練されたオウムと解釈すればいいとして(ホントはよくないけど)、23年生きてきて最大の謎だ。直接彼女に確かめよう。年明けまでこの疑問を引きずるのはごめんだ。
アキラが相談所に着くと同時に、マフラーを巻いたナコがひとりの老婦人と出てきた。
「アキラさん」
「ナコちゃん、いまからどこへ?」
またメンドクサイことに、とアルメリアは頭を抱える。

かくてモノレール千葉みなと駅前に立つ、ナコとアルメリア、依頼者のおばあさん、そしてアキラ。不思議な依頼をナコから聞き、深夜にナコたちだけで行かすわけにいかないとついてきたのだ。
すでに最終便が出発し、営業を終えた駅舎は暗く静まり返っている。
「彼女の願いをかなえてあげたい気持ちはわかるけど、無理だよ。0時の最終も出て、駅はもう閉まっている」アキラはナコにささやく。
ナコはそっと指の赤い石の【リング】に手をやる。
と次の瞬間、駅に灯が次々と灯り、シャッターが上がっていく。
「大丈夫。大晦日の深夜運転があるみたい」
「…ええっ」
さっさと歩くナコたちに、アキラは慌ててついていく。
「終わったらさっさと引き揚げようぜ、ナコ。奴らに気づかれるとまずい」
アルメリアの耳打ちにナコは頷く。
「わかってる」

#再会~モノレール車内の暗闘~夜空へ

 
ホームの時計の針は午前1時前。
一同の前、ふたつライトを照らし、無人の車両が滑り込んでくる。
「2時までまだある。寒いから乗りましょう」
ナコたちは客のいない車内に乗り込む。
ドアが閉まり、走り出す車両。
車窓を眺め、老婦人はナコに夫との思い出を語る。彼との出会いは港だった。95年にモノレールが千葉みなと駅まで開通すると、鉄道好きの夫と一番乗り目指して、早起きして初日に乗った。やがて懸垂型モノレールとして営業距離が世界最長に。一日パスポートを買っては夫婦で空からの眺めを楽しんだ。大晦日には最終便に乗って「来年もよろしく」と言い合うのが恒例だった。あるとき夫の病が発覚し、ほどなくして彼は帰らぬ人となった。あの約束を残して。
一同を乗せたモノレールは千城台駅まで走ると、また折り返し、終着の千葉みなと駅目指して進む。時計の針はまもなく2時になる。千葉みなと駅ホームに滑り込む車両。
おばあさんはナコに微笑む。「ありがとう。お嬢さん。十分夢がかなったわ」
ナコは頷く。と、アキラが声を上げた。
「誰か、いる。ホームに」

プラットフォームには、男性がひとり、立っていた。写真とそっくりのひと。
「あなた」
ドアが開き、おばあさんはそっと男性の前に進み出る。
「ユキコ。迎えに来たよ」
男性は彼女の手を取る。呆然とするナコたちにおばあさんは微笑むと、肩寄せ合いながらホームをゆっくりと歩み出す。ふたりの姿はやがて消えていった。

突然、異音。
ナコたちの乗ったモノレール車両の扉がすべてしまり、灯りが消えた。
「まずい、ナコ。最悪だ、嗅ぎつかれた」青くなったアルメリアがナコに叫ぶ。
真っ暗な車両はナコたちを乗せ地響きを立て、がくんと揺れながら走り出す。床に叩きつけられるナコ、アルメリア、アキラ。
「な、なんなんだ?!」アキラはナコをかばいながら、必死に手すりをつかむ。
速度は増す。窓が次々と割れた。
風が巻き起こり、一同は必死に手すりに摑まる。
アルメリアは叫ぶ。「車両全体に奴らが取り付いている!このままじゃ、空中分解して飲み込まれちゃうよ。ナコ、車両をイカロスに変えて、振り切るんだ…!」
「で、でも」ナコはアキラを見る。
アキラは大きく揺れた車内に投げ出され、激しく身体を打ち付けた。
「アキラさん…!」
気を失ったアキラを揺さぶる。
「ナコ早く、時間がない」アルメリアが悲鳴を上げる。
ナコは指輪を天に掲げた。身体がメタモルフォーゼしていく。
「イカロス……!」
赤い光が四方に舞った。
車体は火の鳥の形に変わり、夜空に向かって舞い上がりながら黒影を引きちぎるように振り落としていく。

満天の星空を炎を散らし、弧を描いて飛んでいく、モノレールの火の鳥。
夜空をゆっくりと旋回すると、地上へ戻っていった。

#朝のモノレール~新年のclipper

 
朝。アキラは光の筋に目を開ける。初詣に向かう晴れ着姿ではしゃぐ女の子たち。朝のモノレールの車内で、ハッとアキラは起きる。
何でおれはここに? ナコに会い、深夜のモノレールに乗って、空中分解寸前になった。あれは初夢の悪夢ってヤツか。
首に手をやる。ナコのマフラーが巻かれていた。
「…」

2022年正月、夕方。
黒船みなと相談所では、アルメリアが網コンロでおもちを焼く。
「ナコー、焼けたよ」
早朝に帰って以来、泥のように寝ていたナコはベッドから起きてくる。
一個ずつのおもちのお皿を前に、二人。
「昨日の依頼のお礼はいただいたけど、ポテト買うひまなかったね」
「いいんだ。ゼイタクは敵だ。いただきまーす」
そのときナコのスマホがピコ、と音を立てた。

千葉みなと駅前のジャズバー・clipperの前に、ナコとアルメリアは立った。
『新年ライブ 4M2T』と看板のかかる扉を開ける。
「ナコちゃん、待ってたよ。あけおめー!」
店内ではデズ、銀之輔が笑顔で手を振る。マスターも店の奥でペコとお辞儀する。デズはアルメリアがダイブする前に、ポテト満載の皿をサッと抱えた。
カウンターに背を向けて座っていたアキラに、ナコは気まずくそっと近づく。
「アキラさん…」
「不思議な少女さん。君が何者であろうとも、まぁいいや。オレは味方だよ」
フッと笑いナコの頭をごしごしと撫でると、ナコにマフラーを巻き付けた。
ナコはそんなアキラを見上げる。
そのときドアが開き、巻き毛ロングヘアの美女が入ってきた。長いまつげの端正な顔。長身のコートから黒いドレスをきらめかせ、美女はアキラに親しげに近寄る。
ナコはドキリとする。ハーフのモデルさんみたいにきれいな人。もしかして、アキラさんの彼女?アキラさんはそもそも学校の女の子たちが夢中になっているアイドルグループの子より、全然かっこいい。彼女がいても当然、だけど…。 チクッとなぜか痛む胸に、頬を赤くしてうつむく。
アキラがナコに、美女を連れてくる。
「ナコ、紹介するよ。シンだ。こいつも4M2Tの仲間なんだ」
「はじめまして。美浜新一郎です」
艶やかな唇から出た低く太い声に、ナコは面食らう。
「シン、イチロー……え、え、か、『彼女』なんじゃ?!」
新一郎はアキラと目を見合わせ、噴き出す。
「俺がこいつの?正月から冗談は勘弁してくれ、お嬢さん。君のことはアキラから聞いているよ」
ナコはまた赤くなる。

夜になり店の窓から、ちらつく粉雪が見える。賑やかな店内にはジャズの音色が響いた。
アキラの指から星砂のようなピアノの音色がこぼれ、映画「ピノキオ」の主題歌でスタンダードナンバーの『星に願いを』がはじまる。
マスターが奏でるエアロフォン、その澄んだしらべに、ナコの心と体はだんだん温まってくる。かつて両親とにぎやかに過ごしたお正月の光景が浮かび上がる。
新一郎のチェット・ベイカーのようなかすれた歌声が加わった。

When You Wish Upon A Star
星に願いを届けるとき それは君のもとにやってくる
運命は優しく愛を運んでくれる
青空をつんざく雷鳴のように、彼女は姿を現し、きみを助ける
星に願いをかけるとき 祈りは必ず現実になる

ふいにこぼれた涙をあわてて拭き、ナコは微笑んだ。


                            ♯2.了





このまとめ記事の作者
比朗
丸山比朗(ヒロ)。脚本、ライター。「シナリオ・ラボ」主宰。 ※本当のことと作者の作りごとが混じった物語です。どこまで本当のことか、千葉みなと...
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