千葉一族盛衰記 第九話「千葉一族と将門記」其の一【2024年2月号】

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  2024/1/29
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千葉一族にとっての将門

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本稿では、将門記に記載されている将門の「前半の戦」について書きます。
内容は、真福寺本をもととします。

将門は、千葉一族の祖である平良文の甥にあたります。また、将門の娘が千葉一族の女系の祖となったとする「伝説」についても前稿で書きました。さらに、「千葉一族栄えるところ将門伝説あり」といえるほど、相馬や佐倉といった千葉一族が根をはった地に色濃く将門伝説が残っていることから、千葉一族が「将門伝説」をその統治に利用した、あるいは、利用とまではいわなくとも「将門を崇める心情」があった可能性について述べてきました。

千葉一族にとって、とりわけ、常胤という傑出した人物の威光がとどかなくなっていった戦国時代以降の彼らに、将門の事績や伝承はどんな意味があったのか。それを考えるうえで欠かせない古文書「将門記」を紐解いていきましょう。



将門記にある前半戦

将門記では、将門と源扶(みなもとのたすく)との戦から「連鎖する戦争」の記録がはじまります。将門の心情描写として、この戦を「回避したかったけれど不可能だった」という趣旨の記述がありますから、作者としてはこの戦は源扶側が好戦的だったと認識しています。とはいえ、このとき将門は「順風を得て」源扶に勝利しました。

勝利した将門は、源扶はもとより、扶に味方した扶の兄弟や血縁者らを次々に討ち取って、彼らの領内の集落を焼き払って行きます。将門記では、これらの一連の戦闘によって発生した戦禍の悲惨な描写が続きます。

将門記の特徴は、戦争当事者の正当性や、主役の武勇伝というような軍記物語の「よくある記述」より、戦で発生する集落の焼き討ちや弱き者への暴力を克明に描くという性質をもちます。そしてその結果として、戦争当事者間の恨みが拡大していく過程がリアルに重ねられていくのです。

こういう「報復の応酬」について、将門記では戦の正当性とは関係なく、「戦そのものがもつ悪」として描いています。

なお、この戦で将門は自身の叔父である国香を殺害しています。国香といえば、平高望が上総介として都から上総へ下向してきたときに、都から連れてきた高望の長男です。こう考えると、千葉氏の祖である高望と将門が地続きの時代を生きているのかがわかりますね。

いずれにして、以上の戦により、将門により殺害された源扶の父である源護(みなもとのまもる)の怒りをよび、源護の怒りが将門の叔父である平良正を動かし、「連鎖的な戦」が口火を切ることになります。

将門とその叔父たちとの抗争

次の戦は、将門と、将門の叔父の一人である平良正との間におきました。良正の軍勢を常陸国で迎え撃つ将門、という構図です。結果、この戦いにも将門は勝利します。この戦に敗走した良正が、今度は良正の兄である良兼を動かし、行軍をはじめます。このとき、国庁は行軍をやめるよう命じますが、良兼は応じず、ついに良正・良兼軍は、これまで戦を対話により解決しようとしていた平貞盛をも巻き込んだ大軍勢となるにいたります。

それに対して、将門側がわずか数百騎の軍勢をもって矢を射かけたところ、良兼は「大いに驚き怖じて」敗走をはじめた、とあります。戦の詳述はありませんが、おそらく将門軍が周到に仕掛けた奇襲攻撃だったのでしょう。この将門の勝利により、将門とその周辺には束の間の平和が訪れました。

以上が、将門記にある将門の「前半戦」です。この後、将門は一連の戦の件で朝廷からの取り調べを受けるため、都に召喚されます。

将門記にある将門の戦ぶりと、都での彼の振る舞いを読み解く限り、そこまでの将門は「朝廷が治める秩序の中」で地方統治をまっとうしようと考えているように思えます。

しかし、この後重ねられていく骨肉の争いを経て、将門の後半戦は混迷の度合いを深め、怒りや憎しみ、周囲からの偶像化による驕りにより、本来将門が持ち合わせていた冷静さが失われていくのです。
【著者プロフィール】
歴史噺家 けやき家こもん

昭和46年佐倉市生まれ。郷土史や伝説をわかりやすく、楽しく伝える目的で、落語調で歴史を語る「歴史噺家」として活動。著書に「佐倉市域の歴史と伝説」がある。
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