「桓武平氏」千葉氏が源氏との主従関係を結んだ歴史の流れ【稲毛新聞2025年2月号】
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2025/2/4
千葉一族盛衰記第二十一話 作/歴史噺家 けやき家こもん

忠常の子孫の奮闘
1031年、忠常は追討使に源頼信が任命されると、あっけなく降伏し、美濃で死亡します。結果、彼は乱の首謀者として京都で晒し首にまでされました。このとき、朝廷の判断一つで、忠常の係累も罪に問われ、皆死刑となる可能性も十分にありましたが、忠常の息子である常将(つねまさ)や常近(つねちか)らは助命されました。
そのような寛大な処置の背景には、彼らが乱に直接かかわっていなかった可能性や、極刑を科さないことで混乱を治めようとした朝廷の思惑、などが考えられます。忠常の乱が平定されたのは1031年、時は平安時代末の混乱期に入ろうとしていました。この頃から、いわゆる「武士」の台頭が著しくなっていたのです。朝廷は、将門や忠常の乱を経験したことで、地方における彼ら「武の実力派集団」の力を怖れるようになっていました。このような背景から、「忠常の息子達」に対する融和策がとられたのではないでしょうか。
この後、千葉一族の祖でもある平常将は、地道に自領の経営に精を出します。そのようにして生き残った彼の息子達が、上総、下総の両総にまたがる大きな武士団を作り上げることになったのです。
そのような寛大な処置の背景には、彼らが乱に直接かかわっていなかった可能性や、極刑を科さないことで混乱を治めようとした朝廷の思惑、などが考えられます。忠常の乱が平定されたのは1031年、時は平安時代末の混乱期に入ろうとしていました。この頃から、いわゆる「武士」の台頭が著しくなっていたのです。朝廷は、将門や忠常の乱を経験したことで、地方における彼ら「武の実力派集団」の力を怖れるようになっていました。このような背景から、「忠常の息子達」に対する融和策がとられたのではないでしょうか。
この後、千葉一族の祖でもある平常将は、地道に自領の経営に精を出します。そのようにして生き残った彼の息子達が、上総、下総の両総にまたがる大きな武士団を作り上げることになったのです。
通し字と両総武士団の形成
先祖から代々受け継がれる名前の一字を「通し字」と言います。平忠常の「常」の字は、常将に受け継がれ、その息子である常長へ渡ります。常長の代になると、「常」の字は上総、下総のほぼすべてを埋め尽くす勢いで広がっていきました。
朝廷に怖れられ、警戒されていたであろう忠常の血脈を宿す「常の群」は、彼らが「荒ぶる坂東の地」の経営にはなくてはならない存在であることを証明する必要がありました。
そのため彼らがとった戦略は、「ひたすらに開発を行うこと」だったはずです。忠常によって荒廃してしまった両総を再度肥沃な田畑に再建し、ある土地は国衙領(こくがりょう)とし税金を納め、ある土地は荘園にし、中央の大寺院や権力者とのパイプを太くしていったと考えられます。
その結果が、忠常の乱の後、両総の地に「常の群の大武士団」を出現せしめ、常胤の時代、いわゆる「源平の争乱期」に、千葉一族が一気に武士の頂上付近に駆け上がる礎となったのです。
朝廷に怖れられ、警戒されていたであろう忠常の血脈を宿す「常の群」は、彼らが「荒ぶる坂東の地」の経営にはなくてはならない存在であることを証明する必要がありました。
そのため彼らがとった戦略は、「ひたすらに開発を行うこと」だったはずです。忠常によって荒廃してしまった両総を再度肥沃な田畑に再建し、ある土地は国衙領(こくがりょう)とし税金を納め、ある土地は荘園にし、中央の大寺院や権力者とのパイプを太くしていったと考えられます。
その結果が、忠常の乱の後、両総の地に「常の群の大武士団」を出現せしめ、常胤の時代、いわゆる「源平の争乱期」に、千葉一族が一気に武士の頂上付近に駆け上がる礎となったのです。
前九年・後三年の役と千葉一族の祖
常将や、その息子常長らが坂東の地で勢力をのばしていたころ、現在の東北地方では「前九年・後三年の役」と呼ばれる戦が発生します。「前九年・後三年の役」とは、陸奥国(現在の福島県、宮城県、岩手県、青森県と秋田県の一部)で発生した、俘囚と源氏との間の戦争の総称であり、ごく簡単に言えば、東北地方の支配を完成させたい朝廷と、「土着の勢力」たる俘囚との衝突、という性格をもつ戦争です。
戦の期間は、「前九年の役」が1051年から1062年まで、「後三年の役」が1083年から1087年まで、というとても長い戦でした。本稿では「前九年・後三年の役」の結果、千葉一族の後の繁栄につながる点を二つあげます。
・関東や東北地方で源氏の支配を固めた
・戦の過程で、源氏と千葉一族の祖との関係を強固にした可能性が高い
戦の期間は、「前九年の役」が1051年から1062年まで、「後三年の役」が1083年から1087年まで、というとても長い戦でした。本稿では「前九年・後三年の役」の結果、千葉一族の後の繁栄につながる点を二つあげます。
・関東や東北地方で源氏の支配を固めた
・戦の過程で、源氏と千葉一族の祖との関係を強固にした可能性が高い
源義家と武士たち
「前九年・後三年の役」は、この戦にかかわった主要人物たちの思惑や愛憎が絡み合い、
非常に複雑な経過をたどります。
そんな混戦の中最後に勝ち残った人物の一人に、源義家という源氏の惣領がいました。戦に勝利した義家は朝廷に恩賞を求めましたが、彼がこの戦に参戦した経緯から、朝廷は彼の戦を「私戦」とみなし、一切の論功行賞もないままに冷遇します。
一方で、彼はこの戦のためにたくさんの武士郎党を招聘し、東北をともに転戦していました。命をかけて戦場で働いた武士たちは、当然に恩賞をもらいたい。困った義家は、自分の財産から、戦に協力してくれた彼らに恩賞を与えたのだ、という説があります。その振る舞いが功を奏し、源義家は関東に強い影響力を持つようになったのかもしれません。
そして、この戦において義家とともに戦い、おそらく義家から恩賞をいただいた坂東武者の中に、常将や常長がいた可能性が高いと、私は考えています。
「千葉一族の歴史」という戎光祥出版の書籍があります。その中に、以下のような記述があります。
『近世に作成された「千葉伝考記」「千葉大系図」によると、平常将は頼義・頼家と主従関係になり、陸奥国において常将と常永(著者注※「常長」と同一人物)は前九年の役に従軍、常兼は後三年の役で転戦したという。これらは「陸奥話記(むつわき)」などに記載がなくそのまま信用できないが、源頼信と平忠常の関係からも源氏及び陸奥国との縁は深くなり、この関係が常胤の頃まで続いたのであろう。』
陸奥話記は、前九年の役の顛末を描いた軍記であり、以前紹介した「将門記」と同様、我が国を代表する初期軍記物語です。内容としては、役の全体を網羅的にとらえたものではないために、ここに常将らの活躍が描かれていないことをもって、彼らが参戦していないとも言い切れません。書籍「千葉一族の歴史」は、そのあたりの機微を短い文章でしっかり表現されていました。
真実はどうだったのか? その点のご判断は読者の皆さまにお任せしつつ、以上に述べてきたような歴史の大きな流れが、「平家である千葉一族」と源氏の関係を深めていったことは確かでしょう。
非常に複雑な経過をたどります。
そんな混戦の中最後に勝ち残った人物の一人に、源義家という源氏の惣領がいました。戦に勝利した義家は朝廷に恩賞を求めましたが、彼がこの戦に参戦した経緯から、朝廷は彼の戦を「私戦」とみなし、一切の論功行賞もないままに冷遇します。
一方で、彼はこの戦のためにたくさんの武士郎党を招聘し、東北をともに転戦していました。命をかけて戦場で働いた武士たちは、当然に恩賞をもらいたい。困った義家は、自分の財産から、戦に協力してくれた彼らに恩賞を与えたのだ、という説があります。その振る舞いが功を奏し、源義家は関東に強い影響力を持つようになったのかもしれません。
そして、この戦において義家とともに戦い、おそらく義家から恩賞をいただいた坂東武者の中に、常将や常長がいた可能性が高いと、私は考えています。
「千葉一族の歴史」という戎光祥出版の書籍があります。その中に、以下のような記述があります。
『近世に作成された「千葉伝考記」「千葉大系図」によると、平常将は頼義・頼家と主従関係になり、陸奥国において常将と常永(著者注※「常長」と同一人物)は前九年の役に従軍、常兼は後三年の役で転戦したという。これらは「陸奥話記(むつわき)」などに記載がなくそのまま信用できないが、源頼信と平忠常の関係からも源氏及び陸奥国との縁は深くなり、この関係が常胤の頃まで続いたのであろう。』
陸奥話記は、前九年の役の顛末を描いた軍記であり、以前紹介した「将門記」と同様、我が国を代表する初期軍記物語です。内容としては、役の全体を網羅的にとらえたものではないために、ここに常将らの活躍が描かれていないことをもって、彼らが参戦していないとも言い切れません。書籍「千葉一族の歴史」は、そのあたりの機微を短い文章でしっかり表現されていました。
真実はどうだったのか? その点のご判断は読者の皆さまにお任せしつつ、以上に述べてきたような歴史の大きな流れが、「平家である千葉一族」と源氏の関係を深めていったことは確かでしょう。
【著者プロフィール】
歴史噺家 けやき家こもん
昭和46年佐倉市生まれ。郷土史や伝説をわかりやすく、楽しく伝える目的で、落語調で歴史を語る「歴史噺家」として活動。著書に「佐倉市域の歴史と伝説」がある。
歴史噺家 けやき家こもん
昭和46年佐倉市生まれ。郷土史や伝説をわかりやすく、楽しく伝える目的で、落語調で歴史を語る「歴史噺家」として活動。著書に「佐倉市域の歴史と伝説」がある。
このまとめ記事の作者
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