千葉一族盛衰記 第四話 賜姓皇族「平高望(たいらのたかもち)」の誕生【2023年9月号】

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  2023/8/29
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時は平安の中期、京の都の南を東西に走る大路を一台の牛車(ぎっしゃ)がのんびり東へ移動していきます。この牛車にのっているのは、今回の主人公である平高望。後に、平の姓を受けて千葉県に赴任し、高望王流桓武平氏の一流、千葉一族の礎を築くことになる人物です。

平安時代は皇族がたくさん!

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今ではちょっと考えられませんが、この時代「〇〇天皇」の子や孫である、いわゆる皇族が京の都にあふれかえっていたと考えられています。
 
その最大の理由は天皇や皇族にたくさんの妃がいたからです。例えば、この高望王の曽祖父(そうそふ・ひいおじいさんの意)である桓武天皇は、記録に残っているだけで14名の皇妃がいたことがわかっています。その14名が、平均2人の子どもを産むと28名。この28名のうち半分は男性でしょうから、やはり何名かの妃をめとり、さらに子をなすと、あっという間に数百人になります。
 
たった二代でこんな感じですから、桓武天皇から数えて四代目にあたる高望王の時代は、桓武天皇由来の皇族だけでも数千人はいた可能性があります。このように一人の天皇を軸とした場合だけでも、指数関数的に皇族が増えていたわけです。
 
朝廷としても、天皇の成り手がいなくなってしまう状況は絶対に避けなければなりませんから、皇族が増えてくれるのは大変ありがたい。また、「自分の娘をぜひ天皇(皇族)の妃に!」という貴族で都は犇めいていましたから、男性の天皇(皇族)としては「ふむ、よきにはからえ」というところでしょう。
しかし一方で、人数が増えれば皇族の皆さまの高貴な生活維持のための費用は膨大なものになっていきます。

さらに、この時代の皇族の役割は主に
・天皇の傍らに仕えること
・宮廷内での儀式や行事に参加すること
でしたから、いわゆる行政実務をしていません。

宮廷行政を預かる人たちの本音としては、「ある程度の皇族数がキープできたら、あとの皇族の皆さまは行政事務をする人になってください」という切実な思いがあったはずです。

しかし、行政事務をする、ということはつまり「天皇のために実務としての仕事をする」ことですから、皇族ではいられません。その場合、皇族は天皇から姓をいただき、天皇の臣下になる、つまり「臣籍降下(しんせきこうか)」する必要があったのです。

それでも高望王は臣籍をいただいた

皇族だった人物が天皇から姓をいただき臣籍に下るという判断は、よほどの覚悟がなければできないものと思います。しかし、高望王は、天皇から「平(たいら)」という姓をいただき、臣籍に下る決断をしました。なぜでしょうか?

それをうかがい知ることができる資料がないので、ここからは事実をもとにした想像でしかないのですが、私は高望王が、皇族でいることに「すっかり嫌になっちゃった」んじゃないかと思うのです。

天皇のそばに仕えて蹴鞠をしたり、雅楽が鳴り響く典雅な宴で歌合せをしたり。あるいは少しでも上級の皇族にとりたてもらうべく、天皇にこれでもかというほどお追従を並べる毎日。生まれたときからそういう教育を受けている人たちですから、
そのような生活に疑問すらもたない人もたくさんいただろうとは思います。

しかし一方で、そういった皇族の生活を「まったく面白くない」という人もいたはずです。そういった若き皇族の中には、「広い世界がみたい」と渇望する人物が、必ずいた。この高望王こそ、その筆頭のような人物だったと私は考えます。

高望王が得た役職

高望王は889年、宇多天皇の勅命で平朝臣(たいらのあそん)を賜与され臣籍降下し、以降は平高望(たいらのたかもち)と称することになりました。

そして平高望は、臣籍を下げ渡されることと引き換えに、898年「上総介(かずさのすけ)」に就任しています。

この「上総介」という役職は、ごく簡単にいえば「上総(千葉県内の一地域)の地方長官」です。この役職こそ、若き平高望の「広い世界が見たい」という野望を現実のものにしてくれる大切な約束手形となったのです。

冒頭の牛車の描写は、平高望が天皇から「上総介」の勅命を受けた帰り道です。牛車の中で、平高望は「ここからが人生だ」と胸躍らせていたのでありました。

俘囚(ふしゅう)が度々反乱を起こす「Wild Wild East」たる上総の地へ! 息子たちを引き連れた平高望の命がけの東方経営が、幕を開けようとしています。
【著者プロフィール】 
歴史噺家 けやき家こもん

昭和46年佐倉市生まれ。郷土史や伝説をわかりやすく、楽しく伝える目的で、落語調で歴史を語る「歴史噺家」として活動。著書に「佐倉市域の歴史と伝説」がある。
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