後継者不足で失われていく"地域経済の宝"を守るには?【2024年4月号】

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  2024/4/2
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高齢化社会が進むなか、喫緊の課題の一つが中小企業の後継者不足問題だ。経営者が高齢化し後継者がいなければ、どれほど経営状況がよい企業であっても廃業を迫られることになる。独自の技術やノウハウを持っている中小企業は数えきれないほど存在しているのも事実で、後継者不足によりそれらが消失してしまうのは、地域だけでなく日本経済全体においても大きな損失につながる。

平成28年度総務省個人企業経済調査および平成28年度㈱帝国データバンクの企業概要ファイルから推計したデータによれば、日本全体では2025年までに平均引退年齢70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が245万人。そのうち半数が後継者未定で約120万人が廃業予備軍となっている。千葉県は事業承継支援に力を入れている自治体のひとつだが、そんな県内でも地域によっては小さな会社や商店が次々と廃業し、かつての賑わいが衰退の一途をたどっている現状に危機感を覚える人は多いだろう。そこで今回は、多くの事業者の共通課題である後継者問題について、事業承継支援のスペシャリスト、稲毛在住の魚路剛司氏(ミライWOつなぐ経営研究代表)に話を聞いた。
 (取材/令和6年3月6日)

事業承継支援のスペシャリスト魚路剛司氏に訊く

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魚路氏は金融機関時代に法人営業部でコンサルを担当、年間150社以上の経営者と面談した。そのうち約7割が事業承継の相談で課題解決を行ったことが現在の活動につながっているという。「金融機関もボリューム面や収益面の目標がありますので、純資産が低い企業の事業承継には消極的になってしまうものです。しかし全国の法人事業者の99・7%が中小企業で、約85%が小規模事業ですから、これらの会社が事業承継できずに廃業となれば日本経済は破綻します。これからは中小企業や小規模事業者にフォーカスした事業承継が必要だと痛感し、そのためにも経営者が跡継ぎ問題をどこに相談していいのかわからないという状況を何とか変えたいと思いました」。

魚路氏は平成31年に独立し「ミライWOつなぐ経営研究所」を開業、現在は中小企業基盤整備機構で全国本部の事業承継を担当、中小企業アドバイザーとしての仕事や、事業承継関連の個別の支援、研修・セミナー講師など活動は多岐にわたる。

国や県の取り組み

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国は事業承継の施策として、ネットワーク構築事業を推進している。県がリーダーシップをとり、商工会、商工会議所、金融機関、士業専門家などの事業承継ネットワークを「かかりつけ医」とし、事業承継課題の掘り起こしを進め、公的機関と連携してサポートする仕組みだ。「このネットワークでは、埋もれている跡継ぎ問題を少しでも早く気づかせる『かかりつけ医』がキーポイントになります。会社の5年後10年後について経営者さんと話していくのですが、悩みを気軽に話してもらえるには信頼関係をつくることですから、『かかりつけ医』のみなさんはぜひ経営者さんとの対話を大切にしてください」と魚路氏。

そして「事業承継には公的な補助金があることも知っていただきたいです。公募なので必ず受給できるわけではありませんが、専門家のサポートを受けてぜひ活用してほしい」と呼びかけた。

国の事業承継・引継ぎ補助金が最大800万円、千葉県事業承継支援助成金が50万円、千葉市事業継続支援金が50万円。これらは株価算出などにも使えるそうなので積極的に活用したいところだ。

M&Aも選択肢に

小さな会社でも何かしらの強みがある。また、経営者が気づいていない価値もあると考えたら、後継者問題を相談せずに、そのまま廃業というのはとても残念な話だ。事業承継には様々な手法があるなかで、小規模な事業者ほど親族承継にこだわり、M&Aなど他の選択肢が視野に入っていないことも課題の一つ。

魚路氏によると、後継者探しには、親族内、従業員、第三者(取引会社やM&A)の3つのジャンルがあるとのこと。かつて、中小企業や小規模事業者は、経営者の子どもなど親族が継ぐことが多かったが、M&Aという親族以外の新たな手法にも期待が寄せられている。

M&Aは一般的に合併と買収という意味で使われる言葉ではあるが、中小企業においては株式譲渡、事業譲渡などを行うことが多い。「自分が苦労して育てた会社を子どもに継がせたいと思うのは当然です。

しかし、子どもは親の会社の魅力がわからず、他で勤務しているほうがいいと言うケースが多く、M&Aでの事業承継が増加しています。古くは買収のイメージがありますが、今は売る側と買う側が対話をして雇用の引き継ぎや、会社名の継続など様々な要望を出し、買い手を見つける。まさにお見合いです」。懸念されているのは、大手M&A業者の手数料が高額なため、諦めてしまう経営者がいることだ。公的機関もM&Aをサポートしているので一度相談してみるとよいだろう。

専門家のサポートで経営改善を

多くの中小企業・小規模模事業者が後継者未定になっている理由について、魚路氏は家族のコミュニケーション不足も指摘した。「経営者さんは、お子さんに継いでほしい気持ちをなかなか伝えられない方が多いのですが、早めに意思確認ができれば打つ手を考える時間も増えます」。

さらに、魚路氏は跡継ぎがいてもいなくても、早いうちから経営改善で事業の磨き上げをして、よりよい会社にしておくことの重要性を語った。「事例の一つをご紹介すると、息子さんが会社員なので会社を継いでもらうことは諦めていた経営者さんが、経営改善に向けて専門家のサポートを受け計画書をつくり進めていきました。すると、会社の価値や魅力が再確認され、結果、息子さんが会社を継いだというケースもあります。経営改善で子どもが継いでくれる可能性も高まりますし、企業価値が上がりますからM&Aの際にも有益です」。

丁寧な事業承継で100年続く企業に

事業承継の基本は、誰に、何を、いつ、どのように引き継ぐか、計画を立てることが指針になるという。自社株や資産など目に見える財産を引き継ぎ、その際の相続税対策をすることが事業承継だと思っている人もいるが、それは一部に過ぎないと魚路氏は語った。「後継者の選定、育成、意思確認など『人』も財産ですし、目に見えにくい経営理念、信用、ノウハウ、技術、人脈等も含めてトータルで、承継していくことが重要です。さらに私はもうひとつ、経営者の家族の意向を大切にしています。経営に参画していないが株は持っていたいなど、
家族がどうしたいのか、周囲のヒアリングも丁寧に行って、だれもが満足した上で事業承継された会社は100年以上続いていくと思っています。中小企業や小規模事業者は地域の宝。それを継続させるのは地域経済を守ることなんです」。

地域経済のためにも魅力ある会社や店舗は次世代へ承継されるべきだが、現役の経営者は熱心に事業に取り組んでいるため、跡継ぎについて早期に考える時間がないのは当然だ。そこで魚路氏は、早めに後継者問題に関心持ってもらえるよう事業承継セミナーでの講話など啓蒙活動も行っている。

現在、後継者未定で悩んでいる経営者には、身近に相談先があることや、公的機関のサポートが受けられることをぜひ知ってほしい。それらの周知を行うための情報発信は今後、より重要となっていくだろう。

事業承継関連の相談先
▼千葉県事業承継・引継ぎ支援センター
 ℡043-305-5272(平日9時~17時)

▼ミライWOつなぐ経営研究
 u.take5833@chive.ocn.ne.jp
 (最初の1時間無料相談実施中)
魚路  剛司(うおじ つよし)

【プロフィール】1958年生まれ/千葉市稲毛区在住/ミライWOつなぐ経営研究代表/経済産業大臣登録中小企業診断士/独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー/CFP/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/事業承継支援マスター/経営心理士

【経歴】大学卒業後、京葉銀行へ入行。在職中は営業店8店舗のうち3店舗で支店長、本部では広報課長、人事部長、融資部長を経験。その後、法人営業部で法人取引先にコンサルを行う。平成30年プッシュ型事業承継支援高度化事業参画。平成31年に独立しミライWOつなぐ経営研究所を開業。
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